コラム

2016/07/14

先を読むプロの仕事

若い頃、幼稚園の教師と園児の関わりを撮影した文科省指定『研修用教材ビデオ』の制作に立ち会ったことがある。そこで、プロの仕事のあるべき姿を目の当たりにした。
 まず驚いたのは、このビデオ制作は、通常と違い、脚本はないのである。
「脚本がなくて、どうして作品が作れるのだろうか?」と、疑問だった。
 その理由は、幼児の日常生活のありのままを撮っていくわけで、何が起こるか全く予測がつかないということであった。そういいながらも、まったく予想がつかないというのは実は、私だけであったようだ。制作にかかわったプロデューサー・監督・カメラマンの人たちは、ただ、漠然と撮影をしているわけではなく、常に幼児の心を読み、次の行動を予想して事前にスタッフが動いているのである。撮影チャンスはそれほどあるわけではない。読みを間違えると、せっかくのいい場面が取れなくなってしまう。だからこそ、スタッフの撮った映像を観ると、
「これは、やらせじゃないの?」などと疑うくらいの映像がたくさん撮られている。
「この子は、今、こう考えているはずだ。だから、このあと、きっとあの子と関わりをもつはずだ。」
「今、この子の精神状態が不安定だから、あの子が必ず声をかけるはずだ。」などと、常に予想をしながら、撮影し続けているからである。だから、幼児の素敵な表情がたくさん撮られていた。幼児は、いつ話し始めるかもわからない。それでも、スタッフは、それを察知していて、その少し前から撮影を始めているのである。脚本のない作品が、時間とともに、撮影していく中で少しずつ形となっていったのである。
 そして、最後は、何百時間にもなる膨大な映像から編集され、たったの20分ほどにまとめ上げられるのである。
 あれから十数年経つが、今でも、スタッフの言った言葉が心に残っている。
「撮影のコツはね。まず、子どもたちの中に溶け込み、違和感を感じさせないことだよ。」と・・・。そう言えば、撮影に入る前の2週間ほどは、スタッフがその幼稚園に入り、撮影はせずに子どもたちと遊びふれあう時間をたくさんもち、信頼関係を築く時間をしっかりもっていたのである。
 我々大人は、ややもすると、子どもとの信頼関係を築く時間を確保するよりも、少しでも、
「まず、これを教えてやろう。次は、これを教えてやろう。」とする意識が働き、結果、子どもたちにとっては、心地よい時間にはなっていない場合も多いのでは・・・。子どもとの関わりは、「ゆっくり」「じっくり」「しっかり」ですね。
 まだまだ学ぶべきことはたくさんあるなぁぁぁ。

峯晋(保育学科教授)

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